法事のしおり

                       難波寺檀信徒用




一、法事の意味

 普段、私たちは、死というものに対して、何か自分には関係の無い
遠い存在のように思っているのではないでしょうか。新聞には、毎日、
交通事故や病気による死亡記事が欠かさず載っています。
でも,それを読んでも、「気の毒になあ」と思い、自分に、置き換えて
真剣に考えたりはしていないように思います。
 でも、死というものが、自分の身近な人に訪れたとき、
人は、死というものを強烈に意識します。
 人生の無常さ、愛別離苦(愛してるものと別れなければならないという
四苦八苦の一つ)という苦しみ、その人の存在の大きさなどを強烈に
意識させられます。枕経、通夜、葬儀、野辺送り、骨上げと続く葬儀式を経験し、
死というものを真正面から見せつけられます。その時、亡くなった人の人生のこと、
残された自分の人生について考えさせられます。
 死というものは、それだけが独立したものではなく、生というものと
表裏一体になったものなのです。生まれなければ、死はありません。
死を見つめることによって、生というものを考えさせられる、一番大切なときが、
葬儀式の時なのでしょう。
 しかし、人間の順応性というものは恐ろしいもので、日が経つに連れ、
人生の無常感や、亡くなった人に対する感謝の念が、段々薄らいできます。
まあ、そうならなければ、いつまでも立ち直れなくて困ってしまうかも知れませんが。
しかし、人生について考えさせられる機会を与えてもらったんですから、
その機会を大切にしたいものです。 そういった意味から、亡くなってから一年目、
三年目と、法事をし、故人の歩んだ足跡をみんなでもう一度振り返ってみ、故人を
偲ぶというのが、法事の大きな意味なのです。
故人の歩んだ足跡を訪ねることは、すなわち、これからの自分の人生について
考えることなのです。

二、法事の心得

 @法事をいつ勤めるのか

 亡くなってから一年目が一周忌、二年目が三回忌、六年目が七回忌となります。
あと、十二年目の十三回忌、十六年目の十七回忌、二十二年目の二十三回忌、
二十六年目の二十七回忌、三十二年目の三十三回忌と続きます。
 三回忌が二年目なのは、数えで計算してるためです。  
又、二十三回忌と二十七回忌を併修して二十五回忌を勤めることもありますが、
どちらでも結構です。つまり、二十三回忌二十七回忌と勤めるか、
二十三回忌二十七回忌と勤めずに、二十五回忌だけを勤めても良いということです。
 五十回忌はどうかということになりますが、勤められたら勤めた方が、
より御丁寧だということです。
 尚、三十三回忌(五十回忌)が済みましたら、その方の位牌は、閉眼供養をして、
お寺に納め、過去帳に記載して、先祖代々としてお勤めをする方が多いようです。
しかし、自分の親兄弟等、その故人の事をよく知っているときは、そのまま、
おまつりして下さい。
 以上の法事は、最低、勤めるべき法事なので、たとえ、親戚や、知人を
招かなくても、必ず勤めて下さい。家族のものだけでも、故人を偲び、
真心をもって勤めましょう。
 何日にすれば良いかということですが、御命日の前の日曜日になさる方が
最も多いようです。祥月命日にするのが本来ですが、呼ばれる方のお仕事の
都合もあるでしょうから、日曜日にされても結構です。
 時間は、午前十一時、十二時、午後一時が一番良い時間でしょう。
会食の時間、参列される方の所用時間などを考えて、決めて下さい。
 最低一月前には、お寺に連絡をして予約していただけますか。
早い方は、一年前から予約されます。  法事の日の前前日、あるいは、
前日にもう一度確認の電話をして頂くと、より確実です。
 又、その日に、お葬式が入り、お勤めの時間を変更して頂くことも
ありますので、申し訳ありませんが、ご了承下さいますようお願い申し上げます。

A法事の準備

  ☆前日までの用意

 まず、法事の日取りが決まりましたら、お寺に連絡して、法事の予約をします。
希望の日にち時間を決め、相談します。

 次に、出席して頂きたい、親戚、知人に、案内状を出します。例文を挙げます。  


拝啓  冬も間近になり、朝夕随分寒くなって参りました。
さて、早いもので今年十一月二十五日は、祖母花子の十三回忌を迎えることに
なりました。つきましては、十一月二十六日(日曜日)午前十一時より
菩提寺難波寺様をお迎えし、自宅に於て、ささやかな年忌法要を相営みたいと思います。
何かと御多用のこととは存じますが、万障お繰りあわせの上、
御参拝、御焼香下さいますようお願い申し上げます。
祖母の法事を機縁に顔を合わせ、近況を報告し合えることを
楽しみにしております。
尚、当日は法要の後、粗飯を用意致しております。
時候の変わり目です。くれぐれも、健康にご注意下さいませ。                                                                敬具
                 十月十五日                        大阪太郎
京 都 次 郎 様


 次に、会食の手配をします。精進料理が最も有難いのですが、
生臭でも構いません。料亭に行くか、自宅で会食をするか、
折りを持って帰って貰うかを決めます。
 お勤めの時間は、だいたい、四十分前後ですから、それに合わせて料理を準備します。
 
粗供養の準備もします。出席して頂く方全員に、一軒に一つずつ、用意します。
又、出席する、息子、娘、兄弟も、粗供養を用意するのが、一般的なようです。

☆前日の用意

 まず、仏壇の掃除をします。線香立ての灰をきれいに、平にし、
ろうそく立てについた、ろうも掃除します。たまに法事に行って、
ほこりのかぶった仏壇で、お勤めをすることがありますので、お忘れなくお願いします。
 いたんだ仏具は、法事を機に買い換えましょう。
 新しい仏具を、買い足すのも、結構です。
 ろうそくと花は、対になっていますので、ろうそくが一本なら、花も1つです。
ろうそくが二本なら、花も2つお供えします。一本づつの時は、正面向かって、
ろうそくは右、花は左にお供えします。
 法事をする方の位牌を、正面におまつりして下さい。
この時、位牌は、本尊様より一段下の段に置き、本尊様が、隠れないように注意して下さい。
 次は、お供えです。お霊供膳(りょうぐぜん)を供えます。
ご飯、おすましじる(具は、豆腐、三つ葉など)だしも、昆布で取り、精進にします。
煮物(大根、椎茸、人参)、和え物(法蓮草の胡麻和え)、漬物(たくあん)をお供えします。
 果物、お菓子は、お盆に半紙を敷き、普段より、にぎやかめにお供えしてください。
 この時、果物は、正面向かって右、お菓子は、左にお供えして下さい。
 お餅をお供えしても結構です。法事用に、黄色と白の餅を紐で縛ったものがあります。
 お花も、普段より、多くして下さい。仏花だけではなく、生花を生けます。
 ろうそく、線香も、一時間ぐらい持つものを用意して下さい。
禅宗では、長い線香を、一本立てるのが正式です。
 焼香の用意(抹香、炭、回し焼香用のお盆)も必要です。
 座布団を、全員が仏壇の方を向くように用意します。

B法事当日の心得

 まず、参列者は全員数珠を持ち、和尚さんより先に到着しているようにします。
 和尚さんが着かれたら、全員で挨拶をします。そして、和尚さんに、
お茶を出してる間に、仏壇の、ろうそく、線香、焼香用の炭に、火をつけます。
用意ができたら、和尚さんに、 「御準備お願い致します」 と挨拶します。
和尚さんの準備ができたところで、
「本日は、お忙しい中をお参り頂きまして、誠に有難うございます。ただ今より、
亡き祖母、法雲妙智大姉の十三回忌の法要を、菩提寺の難波寺様により
勤めさせて頂きます。和尚さん、宜しくお願い致します。」 と挨拶し、お勤めが始まります。
 お勤めの最初と最後に、和尚さんが合図をするので、全員合掌低頭します。
 読経中は、禁煙、私語を慎むこと。そして、できるだけ、正座をすること。
足の悪い方はしょうがありませんが、それ以外の人は、多少しびれても、できるだけ
我慢をしましょう。我慢できなくなったら、崩していただけばいいのです。
 焼香は、お経の途中で、和尚さんが合図するので、施主から始め、
故人に近しい人から順次焼香して行きます。全員が焼香を済ましたら、
香炉を和尚さんの所へ返して下さい。
 焼香は、まず、合掌低頭します。親指、人差指、中指で抹香をつかみ、
炭にくべます。回数は、一回〜三回(禅宗では、一回が正式です。)です。
そして、もう一度合掌低頭して終わりです。この間、数珠は、左手に持ちます。
お勤めが終わりましたら、施主が
「皆様、どうも有難うございました。粗飯を用意致しておりますので、
何のおもてなしもできませんが、ごゆっくりお召し上がり下さい。」
と挨拶し、会食に移ります。

和尚さんにも座って頂くときは、事前に、時間があるか問い合わせて頂きたくお願いします。
日曜日は、法事が何軒も重なっていることがありますので、ご理解下さいませ。

 会食の時に、参列した皆さんから、一言ずつでも良いから、故人の思い出話を
して頂くのも良い供養になると思います。
 
 会食が終わる頃に、粗供養や仏壇に供えたお下がりを、皆さんの所に配ります。
この時、粗供養などは一軒に一つです。又、欠席の方のお供えなどを、
ことずかってきた方に、粗供養をことずけるのを、お忘れなく。
 以上が法事のときの心得です。

分からないことがありましたら、直接お寺に、連絡して下さい。
近所の人に聞いても、宗旨が違うと、法事のやり方など違ってきます。
 仏事や信仰相談は、自分のお寺に、まず相談して頂くことを、お願い致します。

 「でも、ちょっと直接は、聞きにくいな。」と言われる方は、    
          06ー6245ー5110 大阪仏教テレホン相談室
に、お電話下さい。現役の大阪在住の10宗派の和尚さんが、相談に、載って下さいます。
もちろん、無料です。

どうぞ、故人の遺徳を忍び、報恩感謝(謝徳)の念を持ち、
心のこもった法要を、営んで頂きますよう、お願い申し上げます。  

 平成16年10月29日         難波寺住職 三木 應岳 合掌